十月の空を見なさい/嘉野千尋
 
に続く図書館も今では移転され
   敷地跡にはわたしの知らない公園ができている
   喫茶店のあった小さな映画館も今はない
   わたしの知る景色が消え
   わたしの知らない建物が増えた


   あの人の面影を探しながら
   薄暮の町をゆっくり歩く
   街灯の下で独り 
   迷子になってしまったような心地がして
   どうしようもなくあの人を想った


   本を読みなさい


   映画を観なさい


   音楽を聴きなさい


   楽しみなさい
   君の時間を


   そしていつかまた君が独りになって
   もしも私を思い出したなら
   時には立ち止まって空を見なさい


   君の目を奪う
   十月のこの夕暮れ
   

   立ち止まって
   さぁ




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