どこにでもある話 3/いとう
け(玄関は水浸しだ)
バーボンのビンを抱えたままで
何も言わずにドアを閉めた
彼は人前で泣かないように習慣づけられていて
さらに
泣く資格がないことも知っている
そして朝が来てまた彼の1日は始まる
あたりまえの顔をしながら
はるか昔から
彼が彼の純粋さをどこかに隠した頃から
それは始まり続けている
あの日彼女から
「ごめんなさい」と一言だけのメールが届いていたのは
後になって知った話
彼は相変わらず女性を食い散らかす毎日を送っていて
それは端から見れば
以前より真剣にストイックに
修行僧のように食い散らかしているようで
傷を癒すために別の傷を負った彼の話は
あの夜に途切れたまま
まだ終わっていない
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