何もない彼/AKiHiCo
 
眠り続ける彼を抱き上げた
だらんとだらしなく細い手足
蒼白い月に照らされた瞼の舞台で
華麗に踊るのは悲しみの輪

狭い場所で生きてきた彼の
存在意義などあっただろうか
持ち上げても重みのない体
灯りを消した部屋で眠る
その姿は今にも消えてしまいそうな
そうならない為に

彼を何もない冷蔵庫に入れた
ドアを開ければ冷気が頬を掠め
そこで彼は夢を見ながら
少しずつ温もりを忘れてゆく
開かない瞼の裏で見る幻覚と共に

やがて静寂の朝を迎え
冷蔵庫を開けるとそこには
水溜りが出来ていて
残されたのは私の影だけ
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