森のなか/そう
 
あの樹の陰に隠れているのはだれ
さびしそうに
じっとうずくまって
耳をふさぎ 目をふせて
なにを怖れているの だれが恐いの

だれひとりいない森のなか
こんなに静かで
鳥の音ひとつ聴こえない
母のからだのなか
あまりに平凡で あまりに茫漠として

ひとたび思考が動きだせば
そこはいつもの街に変貌する

そんなだれもいない森のなかで
僕は君をさがしている
君を…さがしている

はじめての声で 僕は君を呼ぶ

森のなかの一本の樹の陰から
君が姿をあらわす

そして 君の背後から
僕の背後から
幾億の樹々の背後から
人や動物や大地の記憶たちが
顔をだす

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