一滴の珈琲から/佐々宝砂
 
一杯の珈琲から恋が生まれることがあるなら
それが一杯の中将湯であったってかまわないに違いない
もちろん玄米茶でも胃カメラでもゾウリムシでも
かまわない筈なのだがなぜか恋の原因となるのは珈琲であり
あるいは紅茶であり酒であり涙であり吐瀉物であったりする
間違ってもメチルホスホン酸ジイソプロピルエステルではないのだ
理由は知らないが

それはさておきとある昼さがり
私はプシュウドモナス・デスモリチカに恋をした
石油を食うというバクテリアだかなんだかそういうものである
プシュウドモナス・デスモリチカは肉眼で観察できないので
ランデブーは顕微鏡を用いて実行された
厳密に言えばそれ
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