どこにでもある話 1/いとう
こまで見届けてから家に帰り
それから
彼女からの連絡が来るまで
家とコンビニと酒屋を往復するだけとなった
彼のストーカー生活はその日で終わり
それ以外の何かもその日で終わり
それは今でも続いている
彼女の出した答えは彼の予想と違って
「やっぱりあなたが好き」と言ったそうだ
彼は彼女に
彼が見たことは一言も触れずに
「君は僕に隠していることがある
それを君が言うまでは僕は君とつきあえない」
そう言って
それ以降
彼と彼女がつきあうことはなく
そこで彼の話は終わった
彼は「どこにでもある話だよ」と笑って
残っていたビールを飲み干す
彼が飲み干すのを待って
「この話いつか使っていい?」と尋ねると
昔の話だから大丈夫といつもの顔で答えてくれる
それは彼との友情ではなく
単なる彼への甘えなのだけれど
甘えついでにもうひとつ
「女食い散らかすのはそれが原因?」と尋ねると
今の俺は愛が溢れて困ってるんだよと笑うので
とりあえずその言葉を
素直に信じることにした
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