太った犬/石川和広
 
空からメスがふってきて、私の体の輪郭をふちどった。夜露をのせた草むらに。誰だと思ったら私の友達だった。友達は私の好きだった人を連れて、空で優しく微笑んでいる。その笑みはまるで一等星のように素敵に光っている。私は不思議に怒りを覚えずに二人が手を繋いで歩いていくのを見ている。私はただ待っている。二人じゃなくて、あの人が来ることを。あの人の顔は地蔵みたいで目を瞑ったり、口の端に微かな笑みの痕跡を残しているが、私は、その人の優しさをひどく憎しんでいる。まるで鍵っこみたいに、草むらで寝転んでいる。釘づけになったまま。遠い雷鳴。水の音。待って。待って。舞わないで。置いていかないで。といっても待ち合わせしていない。
私はただ待っているだけだ。隣を太った犬が通りすぎていく、、
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