回 帰/田代深子
 



錆こする
     蝉 が赤土の
踊り場を囲い 哉
 哉哉哉哉 といにしえの

唱をまねび叫ぶ
     哉 哉哉哉 哉
橡の木の下で錆び
       た旋盤機が
抱え込む影塊は夕立の日に
  家を失せた
 叔母 おさなくして
         「ああ
やっぱり
   そこにいたの」誰も
確かめにいかない で
  ごめんね 母は小声で
そこに  いたのわかった
それで
充分    丈高い
        夏草の叢
にかがみこんだまま
まだだ よまだ
     動いちゃ 錆が
  新しいシャツをよごす
じゃない   哉 哉哉哉
哉 
[次のページ]
戻る   Point(10)