午前を飼う/塔野夏子
私の中に
午前を飼っている
白い舟がいくつか
遠く漂う午前だ
華奢な草の葉がためらいがちに揺れ
吹く風のなかに
覚束なげな青さが
消えない午前だ
もう長いこと飼っている
だからもう午前は
どうやら午前であることに倦んでいて
少し目を離すと
どこか気怠そうな雲など浮かべて
午後であるふりを
はじめてみたりする
だけど所詮
ほんとうの午後には
なれやしないのだ
そのために必要不可欠なある要素を
私はまだ
与えていないから
午前はそれを
もどかしく思っているにちがいなく
ときどき大きな瞳で
ひたと私を見るのだ
私はそんな午前がいとおしく
まだ今はこのままで と
ただ微笑みかえすのだ
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