もも/服部聖一
「もも」のような人だった
夏の始まり
胃のあたりにひどい痛みを訴えて
青白くやつれていった
食べものの好みが変わって
「ガン」かもしれないと感じた
不意に 人生の何分の一かを失う と思った
失うこともあるかもしれないが
何事もなく、ガンもなく、嵐はさり
失ったかもしれない人生はまるまる残った
最後に食べる食べ物は「もも」に決めている
はしかい産毛の乳房のように熟れて
しあわせな気分の香りで
食べることは生きることに満ちて
甘く はかない香りは蓮の香りにも似て
ゆるく夏につながっている
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