阿呆の子(走る!)/多々田 駄陀
いきなり走り出した。
何かに急き立てられ、
何かの使命を感じたように
走り出した。
口は一文字、
歯をくいしばり、
鼻ん穴 おっぴろげて、
目をつり上げて、
走った、
走った、
走った、
阿呆の子、走った。
近所の子に
あほう、あほう と
アホにされても気に掛けず、
子犬にしょんべんかけられても
気に留めず、
腰の曲がった婆さんに
追い抜かれたことにも
気づかずに、
阿呆の子は走った。
ふと、立ち止まり、
天を見上げる
阿呆の子。
あし は はだし、
まえ も かくさず、
ぽかんと くちをひらけた
阿呆の子。
なんで走っていたのか、
というよりも、
今の今まで 走っていたことさえ
覚えていない
阿呆の子。
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