ゆきの花/たちばなまこと
夏が終わるね
少年が
風鈴の音を撒きながら走り抜けた
この胸元ではまだ 汗のビーズが貼り付いていて
蝉しぐれが落ちてくる 私たちの地上では
色付きの花々が 太陽を仰いでいるけれど
ゆきの花が見あたらない
匂い立つ秋が来ても
乾いた冬が来ても
ゆきの花は咲かない
十代の目眩の間では
空白の夢見に怯えたままの 午前五時台の夜明け
夢の地平線 水晶体がとらえた地平線
ハレーションを起こす一点 ゆきの花野
両手に包んだ花頭から シャボンになったゆきの呼吸
透明の集合体は やがて乱反射の白となり
どの色にも染まる
初めての夏が私を 手招かず追いやりもしないよ
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