雪景色/不老産兄弟
 
講演会場まで徒歩7分
地下鉄の駅は改札からが長い
あの日は確か渋谷で待ち合わせた
雪が降ってた

転ばないように手すりにつかまって
慎重に階段を下りていく人々は
肩に力が入りすぎている
講演者の著書を後ろにずらりとならべても
引きつった笑顔では聴衆の心は温まらない
こんな雪の日は

少しコニャックが入っていたせいか
俺たちは何度も不適切な質問をした
本気でぬくもりが欲しかった
ラーメン屋の角を曲がった時からずっと

三時ごろ途中退室をする人が相次ぐ
多くは二十代前半と見られた
まさかと思い一階の喫煙所に行ってみると
忍耐の薄弱な社会の敗北者達が
クラゲのように絡み合う姿は
フェリーニかと思った

とにかく罵倒してやったら
半数はその場を立ち去った
残りの連中はしぶとく
雪球を投げてきた

昼飯にカレーを食べたと思われる男の
白いニットの黄色いしみが気になった
男は泣いているように見えたので
あわてて警備員を呼びに行ったころ
通りの向こうにはぽつりぽつりと明かりが灯り始めていた

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