忘れんぼうの水族館/初代ドリンク嬢
 

彼女はクルクル回りながら
僕も聞いたことのない
金属をこするような声で
鼻歌を歌いながら干した
知らない世界の
踊り子みたい

干している物は全部真っ白のシーツだけだった


僕たちは
やっと水族館に着いた
閉館30分前

「ねえ、アイスクリーム食べよう」
彼女は
マンボウの前を素通りした

「なんだかさっきからアイスクリームが食べたいの」
「そうだね」
「アイスクリーム食べようか」

「あのね、今度、水族館へマンボウを見に行かない?あの薄い体を見ると笑っちゃうのよ ね。あの中にはきっと何もないと思うの。水だけよ。海の水だけがいっぱいなの。風船 みたいに。」
「そうだね。今度ね。」

僕の返事も聞かずに
彼女は
立ち上がって
どこかへ
走っていった

何を見つけたんだい?


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