花とスピード/RT
 
でられた
あのひとだけには私が見えるらしい
泣くのをやめると手は離れる
そう思ったから泣きつづけた

どうして私が見えるの
不思議だったので聞いてみた
あのひとはうつむいて答えた
「だって床が濡れているから」

床からはなにも咲かない


   *


ワイパーって右だっけ
間違ってウインカーを出してしまったから
もう曲がらなくてはいけないわ

想像も出来ない未来を作っているのはいつだって自分だった


   *


遠慮がちに小さく
クラクションを咲かせる
花言葉は
「わたしはここにいます」

ぷっぷー
私はここよ
ここにいるのよ
あなたはふりかえり
私の花をやさしく摘んだ


   *


ブレーキを踏むのは
アクセルと同じ足


   *


あなたが差し出した花を
黙って口に含む
蜜を吸う
想像以上の甘さに
言葉を忘れていることも
忘れていた




初出・同人詩誌『ソラミミ』創刊号

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