光に触れる手/木立 悟
月は去り
夜は現われる
濡れた枯草の冠が
微笑むものを照らしている
熱は夜の手を取り いざない
夜は野に横たわる
葉が冷気にかがやくとき
熱は空へ還る
空へ落ちる雨になり 羽になり
空へ還る
荒地のわずかな水源へ
雲が 霧が 落ちてゆく
風が色をざわめかせ
草の波が夜を導くとき
とり残された中庭に
遅い朝がやってくる
重なる手のひら
静かな手のひら
何かを抄うように
差し出される手のひらが
荒地に咲く音の水紋に
はじまりの声に光を返す
天気雨のような光を返す
雨と原が冷たく出会い
霧が過ぎるものの冠を濡らす
谷の火 淡い火
明けゆく空のむらさき
一面の緑から立ちのぼる白熱
遠く 近く
生まれ続ける音が
降るように集まってくる
光に触れる手を目指して
あらゆるものの出立の朝に
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