煙草の火/フユナ
夏の闇は思ったより深いのか
それだけが
ほんの小さな鬼火のように
灯っている
今
その人は息を吸った
白いランニングの大きな腹がふくれ
コオッ、と
鬼火は点滅、そしておさまる。
その人はだんだん白くなる
髪から肉からなにもかも
そして中身は
どんどん黒くなってゆくのだろ
今、その人は息を吸った
コオッ、と灯る小さな火
その人は港を向いている
家の前からは見えないが
その人は見ようとする
いつか越えてきた
海のはて
いつもは爺ィや婆ァの尻を拭いてるども
そんなおれはどこがらきたべが
して、どこさいくべが
問うていたかは知らないが
その人の火は海を向いている
目印にしては小さいが
さても
闇やら海は思ったより深く
白いランニングのたるんだ腹が ふくれ
息を吸うたびに
コオッ、と鬼火はとても赤く、
点滅する
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