深層区域/大海
青臭い匂いが
つんと鼻をかすめ
風格ただよう大木達は
ささやかな密約をかわしている
静寂に耳をすまし
一歩
ゆっくりと踏みだすと
山猫が背をのけぞらせ
大あくび
ぽっかり空いた暗闇には
確かな虚無が
黒目ははっと息をのみ
得体の知れないものが
地をはうようにうめく
また一歩
おそるおそる踏みだすと
枯れ枝からは無意識のため息が
ひっそりと漏れだす
深海に沈む貝殻をあけるのは
ひどく難しいことなんだ
水圧以上のものが
きみに負担をかけるからね
その忠告は
もう腐葉土に折りかさなっていた
完成された二つの耳は
森の魔術にかかっていて
ふくらはぎが痙攣しながら
何度もうなづく
その森を知っている
だれよりも知っていると
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