「あいうえお」(「五十一のデッサン」より)/たもつ
(あ)
あ
っという間もなく
それはもう
あ
ではなかった
語られることのないおとぎ話は
ただ
さらさら
さらさら
と音めいていて
僕の両手はいつも
掴まえることが
下手くそだった
(い)
い
は
い
であるために分離された
二本の線のことである
だから
い
は
いつまでも悲しい
そう思っていた少女は
ある日星になった
それからこの世界では
い
を見て涙するものは
いなくなった
(う)
うっすら
ふりつもる
それは
うそ
もしくは
うそ
っぽいもの
あなたからの手
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