Saudade./芳賀梨花子
で飛び去っていく
見送るわたしの頭上で羽毛が舞う
わたしは右手をかざして
それを掴んだ
「靴を履くのをやめた靴職人」
靴屋はどこか、と森の鍛冶屋に聞いた
靴屋は旅に出たよ、と鍛冶屋は答えた
どうしよう、履きつぶした靴では届けられない
再びたずねた
花屋はどこか、と
そんなものは無い、と鍛冶屋はそっけない
この調子では菓子屋も本屋も無いだろう
だったらなにがあるの、と質問の仕方を変えた
あっちに石屋ならあるよ、と鍛冶屋は答えた
仕方が無いので、石屋に行くことにした
その石屋の爺さんは赤ら顔だけど
何でも知っていた
わたしがしなければならないことまで
爺さんから、それを聞き出すまでに
ゆうに三日はかかったけど
わたしは石屋の爺さんに丁寧にお礼を言って
ポケットに入っていたものを
すべて爺さんにあげてしまった
再び歩きはじめる
靴は破れたまま
でも、もう、そんなことは、どうでもいい
わたしは見上げる
空を見上げる
風は絶え間なく
真昼の月は真白く
あいかわらず
いろいろな想いが飛び交っている
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