憂い蝿/かや
蝿がぶうんと飛んでいた
人工の生活に慣れない
おまえは電球のかさにさえ
眩惑する
生まれついた無鉄砲さに五六回
かさの障子に挑んでは
じじじとわめいて
いつしか諦めたように
卓上におちる
そのときおまえの目が
少しばかりかげった
しかしおまえの悲しみなど
だれが興味を持つというのだ
つまり八百屋のチラシ紙で
おまえを潰して
くず箱に捨てたのだった
おまえはいなくなった
おまえはいなくなったのに
なぜだろうそのときから
当たり前に死んだ 一匹の蝿の
憂いが私の耳元で
ぶうん
ぶうんと唸っている
戻る 編 削 Point(3)