爪を摘む夜/Fujiwara Aki
未練が忍んで 訪ねる夜は
畳の部屋で 灯り おとして
膝を立てて 俯いて
女が爪を摘むのです
ちぎれた身の内一つのものの
行方さえ 問えぬよう
男の居場所を 問わぬよう
我が身の先を摘むのです
痛みに無縁なぶんだけに
懐かしい曲を流し
心の中で血を流し
一つ一つ摘むのです
薄笑いを浮かべながら
誰かの背中を刺せるよう
己の魂を抉れるよう
先を整え摘むのです
また、月が満ちる頃
忘れきるまでくり返し
同じ夜をくり返し
女は、爪を摘むのです
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