羽根/落合朱美
 


歌は

あなたの唇から
ほろほろ零れて
やがてひとつの連なりとなって
わたしの胸まで届いたのです

風見鶏のわたしは
風が吹くたびに
あちらを向いたりこちらを向いたり
惨めな姿でくるくる回っておりました


歌を

あなたが囁くたびに
嬉しいのか悲しいのか
わからないけれど心が浮き立ち
わたしは空へ飛ぼうと思うのです

けれど偽りの羽根では
羽ばたくことなどできなくて
わたしは足もとからぽろぽろと
崩れ落ちそうになるのです


歌が

あなたの歌が
手を引いてくれたので
わたしはとにかく歩こうと思うのです

偽りの羽根ではなくて
空ではなくて目の前の道を
わたしの足で歩こうと思うのです

ゆくえはどうか風に聞いてください






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