ひらいた/霜天
 
ひらいた
真っ青な夏の花、の小さな朝のこと
誰も忘れていたそれは、僕の机にあったらしくて
迷わずに僕に返還される
空に混ざれば見えなくなりそうな
僕の目は青に染まる

誰もいない部屋のこと
思い出すというよりは
向こうからやって来ることばかりで
青い花、ひらいた
捨てるものといえば
深く静かなこの部屋で
残せるものはひとつの
きらきらと光、舞う空間
青い花、そこでひらいた


寂しい顔の人は
一番にその花を見つけて
さよならの練習を、繰り返していたらしい
返ってきた花には
それがいっぱいに詰まっていて
返さなければと思うけれど
その人の顔を、うまく思い出せない


ひらいた
夏の日、忘れかけていた頃の
僕の机の返還された夏からは
さよならが繰り返し溢れていて
青い花、小さな花
あの頃よりも深い色で
いつか空に溶けて
消えてしまうまで、と

青い花、今日もひらいた
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