夏の死/有邑空玖
夏の空は不必要に青過ぎて
まるで現実感がない。
蝉の不協和音も陽炎も
在り来たりの遠さでしかない。
立ち止まって振り向いても
君が居ないのと同じように
希薄。
印画紙に切り取られた僕らは既に
夏の骸に過ぎないのだ。
手を伸ばしても届かない
水底の月に似て。
そう云えばね、
一筋向こうの煙草屋の長男は
昨年の夏に海へ行ったまま、
帰って来られなくなったそうだよ。
家の者はそれ以来、
魚を口にしなくなったらしい。
彼の夏雲のように白い頭蓋骨は、
きっと今も底で笑って居るのさ。
魂はいつも空をゆく。
あの青い硝子を割ろうとして
どんどん遠く離れてゆくのだ。
そして二度と戻って来れない。
君も
君を失った僕も
僕を失う誰か、も。
今 空をゆくあの飛行機が墜ちて来たら
この夏は終わるだろうか?
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