うみ ?/木立 悟
夜多き午後に生まれて
水に逆らい 森になり
少しだけ埋もれた地の月を見る
暗い光の束を見る
血のにじむ手のひらの先
雲に重なる雲を見る
空が示すものに応えつづけて
ひとつまたひとつ水の輪が生まれ
みずうみに浮かぶ花のなかの
よるべなき蜘蛛を連れてゆく
ゆくえなき蜘蛛を染めてゆく
透明なもの
なにもないもの
晴れた日の家の陰でふるえるもの
鏡のなかで倍になり
鏡とともに消えるもの
たとえようもない水がある
たどりつくことのない波がある
数え切れない鍵を打ち寄せ
水際の土を青銅にする
隠された扉
隠された銀
午後の光に浮かび上がる
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