しずく/霜天
その角を曲がると
いつだって彼女は立っている
そこに、体に付いたしずくを払って
その度に小さくなっていくようだ
しずくが地面に消える分だけ
ビルはその背丈を伸ばして
猫たちの逃げ込む隙間を増やしていく
それが彼女の望む世界だとして
麦藁帽子の隙間から
僕はその世界を見ている
一番、二番、三番
ゴールテープはいつだって遠かった
僕らが夢について語り合う時間
その間に街は、変わり続けようと夢を見ていた
複雑に絡み合った路地裏
潜り抜けると
小さな家
隙間なく絡みついた蔦の群れ
その緑を空にまで、伸ばそうとしている
彼女は、そこを潜り抜けたらしい
ひとつ、ふたつ、しずくを落として
空は確かに、緑色に染まった
その角を曲がって
いつからか彼女は消えてしまった
街はすっかり隙間だらけになって
どこへでも行ける代わりに
もうどこへも行けないかもしれない
これが彼女の望む世界だとして
ゴールテープはどこへ行ってしまったのだろう
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