「 冷たい紅茶。 」/
PULL.
それが誰なのか、
記憶を探れば出てくるが、
誰が誰であったか、
この部屋では関係ない。
窓の向こうに手を伸ばそうとも、
扉の向こうに声を掛けようとも、
ひとつも思わない。
ただこの部屋で、
過ぎゆく世界を見続けたいだけ。
窓の向こうを通り過ぎるのは、
もはや知らない顔。
扉の向こうから流れるのは、
どこか懐かしい声。
ティーカップには冷たい紅茶。
るらり波紋が広がって、
琥珀の中、
鮫が溺れていた。
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