あの子の お口/千月 話子
 
皮肉ってみたけれど
口に残る甘やかな風味に諭されて
ほんのり切ないのよ あの子は。
(早く実を食べて、美味しいと言ってあげて)


窓辺から見上げる空が変化して 群青
鮮やかな夜に良く見える 月のクレーターが
異世界に連れて行くよ 星に乗って
少しずつ大人になって行くのだと思いながら

 見つめる今日は 銀盆の月 日和



昨日見た外国映画の少年に恋をしたみたい あの子は。
まどろんだ横顔と 右手でピアノを弾いていた
途切れ途切れの『エリーゼのために』
今は、誰も居ないから ひとり
テーブルに左手と左頬のせて 指先で真似る

らら らら らら ららら 
 口元が 幸せそうに。



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