空き缶/
佐藤伊織
遠くに見えた空き缶の色は
ぼくにとって空の色だった
沈んでいく雲の色だった
どぶ川に浮かぶ自転車のサドルに
腰掛けていた
マンションの屋上には
淀んだ雲が腹をのせている
ゆるやかにしずかに
生暖かい空気がぼくをつつんでは
眠りに誘おうとする。ただ記憶だけを消しに。
誰もいない街に電灯がともり
誰もいない家路を
夕闇に影をみた
家路を辿る幾筋かの影を
ぼくは目を閉じるたびに
空き缶の空を思い出す。
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