無言依存/A道化
 



地へ圧し掛かる空と
空へ高揚する無数の緑の視線との間
夏の声帯が震え、静かに感情を燃やしている
若い耳で、耳鳴りが日常になってゆく
若い目が、陽炎に依存してゆく
信じられるものを探して見回せば
そんな夏に確かなものは
ひとつ、この無言


はたと、若い喉が
静かな違和感を覚えたらば
それは声帯の粘膜になりすました一枚の死
けれど、痛みを曖昧にする甘い炭酸水のようなものに進んで溺れ
ひとつの歌だと許容されてゆく息継ぎの果てに
ひとつの違和感に慣れた頃
届かない音域がひとつ生まれていると
気が付かない歌がこれほど美しいとは?


初夏の百合の蕾は既に空き瓶だ
風の中で柔らかだった揚羽蝶はいつしか
風に引き摺られる塗りつぶされた紙片だ
嗚呼、何が起こったのか? 何か起こったのか?
回答を探して見回すも
決して答えずに赤褐色に掠れ始めた声帯の
可能な音域にのみ実り始めているあれは
あ、ああ、秋


そうしてそれでも確かなものは
問いの跡地の、ひとつ、この無言



2005.8.11.
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