中田さんのお見舞いに/辻野克己
 
近づく

中田さんは
パンダになる

病気らしい

入り口で
手を消毒する

消毒液が
床にこぼれ

扉を
二つ
またぐ

パンダが一頭
寝ている

中田さん

呼びかけ

手を
にぎる


クジラの煮凍りを置いて
外に出る

電話をかけ
月子さんを呼ぶ

白い
バンに乗り

扉を
閉め

走り出す

置いてある
水を飲む

のどが焼ける

それ
海の水

言って

月子さんは
飲む

風が
ぬるい

花火
今日
ダメだね

やがて
骨がなくなり
海で
生きる

月子さんは
窓を閉める

そうですね
私は
中田さんの
手の感触を

体で
思い出す


花火
温もり
遠ざかる

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