に隠される/石田 圭太
くすると
おのおののホホにはえくぼがうかびはじめていた
海のどこかで声がしていた
外から声がしていたからだ
あるいは重なっていたのかも知れない
しかし耳の良すぎるかれらの眼は
外を上手にのぞくよう出来てはいなかったし
届こうとするうちに乾いてしまう事は
代々の掟のようなものでわかっていた
やがて身体が溶けてしまう頃には
底に置き忘れられた片足の
長靴のように不確かな気持ちだろう
そんなこともお互いには関係がなかった
そもそもがそういう仕組みではなかったからだ
※
明るくなる瞬間の一瞬の赤さが慰むんだときみ
ああ、そうだねえとわたし
同じ時間に空を見ていたのだが
なんだか違うねえと気付いたら
きみの蒔いたやさしい種を
やさしい波で流してあげよう
海にあこがれきみはくらげの
やがて骨になるだろう
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