に隠される/石田 圭太
 
くすると
おのおののホホにはえくぼがうかびはじめていた


海のどこかで声がしていた
外から声がしていたからだ
あるいは重なっていたのかも知れない
しかし耳の良すぎるかれらの眼は
外を上手にのぞくよう出来てはいなかったし
届こうとするうちに乾いてしまう事は
代々の掟のようなものでわかっていた
やがて身体が溶けてしまう頃には
底に置き忘れられた片足の
長靴のように不確かな気持ちだろう


そんなこともお互いには関係がなかった
そもそもがそういう仕組みではなかったからだ





明るくなる瞬間の一瞬の赤さが慰むんだときみ

ああ、そうだねえとわたし

同じ時間に空を見ていたのだが

なんだか違うねえと気付いたら

きみの蒔いたやさしい種を

やさしい波で流してあげよう





海にあこがれきみはくらげの
やがて骨になるだろう






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