果実症/A道化
あの夏の指は
空き地の夏草で切れ
薄っすら汗滲む指紋にぽつ、と赤く
劇的に熟してゆく果実を携えたように
あの夏の指は
空き地の夏草で切れ
何処にも行かないという約束がその時
結ばれたのだと決め込んでしまい
だからわたし、はぐらかさねばならないのだ
燃えるように指を見つめ、故意に指ばかりを見つめ
嫌というほど告知される今を此処を激しくはぐらかし
赤い果実を指に再燃しては見つめ、見つめ、見つめ
そうして、繰り返される夏、夏、夏に約束を果たすふりをする
そうして、どんな熱にも傷まないものの栽培に熱中する
燃えるように指を見つめ
故意に指ばかりを見つめ
2005.8.4.
戻る 編 削 Point(10)