走り抜ける/チアーヌ
 

二段ベッドがうらやましかった
狭い
狭い楽園
子供部屋を出て
隣の部屋を覗くと
中くらいの大きさのテレビや
茶箪笥や
座椅子が置いてある
普通の茶の間
微かに大人の匂い
よその家の大人の匂い
すっかり暗くなった外を見て
急に不安になる
もう帰らなくちゃ
玄関で靴を履いて
引き戸を開けて外に出る
夕暮れの風が頬に涼しく
わたしは走り出す
家々の裏を通る
道路なんか走らない
いろんな家の台所の匂い微かに風に紛れている
猫のように
犬のように
走り抜ける
お友達の家は
今はもうない
そこには
大きな看板が
立っている

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