ここにいる/朝倉 一
ない
横たわる私と、横たわる自転車が
アスファルトの上で夜空に押し付けられている
忘れていたかったのに、忘れた振りをしてやったのに、
忘れたつもりでいたのに
言葉にならないだけでここにいる
私もここにいる
忘れることも、忘れられることもなく痛みとなった私がここにいる
受話器の向こうに猫の鳴き声
解っているくせに解らない振りの無邪気ないじわる
言葉は足元に落ちてしまって誰にも拾えない
静かな直線が右耳から左耳へ抜けて行く
聞こえていなかったわけでも、見えていなかったわけでもなかった
聴きたくなかった、見たくなかっただけ
ただ拒絶していただけ
まだなくすものが
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