ここにいる/朝倉 一
 
忘れていたわけではなかった
意識の表層に無い、喪失
痛みとその必然
その不可視、恐るべき不可視

ペダルを踏みつづける、失ったものを追いかけて
太腿を襲う痛みを脇腹へ捻じ込みながら
走る深夜の国道、水銀灯の列が終わらない
吐息だけが白く、闇の中に続く情景が冷めて蒼い

忘れていたわけではなかった
握り締めていただけ
油断したから、指の間からこぼれだしてきた
触れていたかった、そばにいてほしかったものを失った
これ以上目を閉じられないほどの痛み
閉じても、閉じてもこぼれだしてくる涙のように
指の間からこぼれだしてきた

ペダルはもう踏めない、水銀灯の列は終わらない
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