取り憑かれた人/恋月 ぴの
真昼の公園で
全身、汗にまみれながら
ジョギングをしている人がいる。
両の手に
ペットボトルを握り締め
汗に濡れ、体に張り付いたランニングシャツから
鍛えぬかれた筋肉の動きが感じられて
両の目は虚ろにも感じられて
一人、黙々と走っている。
ゴールは彼に在るのか
地の果てまで巡り巡って
再び、この公園の周回路に差しかかったのか、
持てる力の限り両手を振って
苦しそうにもがいている。
腰まで夏の暑さに溶けたアスファルトに浸かりながら
道行く人を
じゃれつく子犬を
よたよた走る自転車を
掻き分けて、掻き分けて
苦しそうに最後の力を振り絞り、もがきながら走っている。
しだいしだいに
汗にまみれた首あたりまで
夏の暑さに溶けたアスファルトに
ずぶずぶと飲み込まれてゆき
やがて、彼の姿を僕は見失った
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