笑顔の浮力/殿岡秀秋
 

ビルディングの床は凍っている。最上階からアイススケート靴ですべりおりる。ループ状になっている段差のない廊下を滑らかに下っていく。窓は桟がなく360度のパノラマの風景を見ることができる。雪を羽のようにかぶった山が見える。反対側は小島を浮かべた海である。島の周りを流氷が囲んでいる。昇るのは建物中央のエレベータだ。ループの廊下を降りる途中、階ごとに出入り口があり、それぞれのフロアーに行くことができる。スケートを履いて滑ってくる人とすれ違うときはヤッホーと声をかける。相手はおはようと返事してくる。オフィスにはいり、知り合いの人に挨拶して、ぼくはまた滑りだす。階を下るにしたがって知り合いが増えてくる。ぼくは人々の笑顔を服の中に溜め込んでビルディングから街路にすべりでる。かもめが群をなして飛んでくる。ぼくの服には紐がたくさんついていて、それをかもめたちがクチバシでくわえる。ぼくの服は人々の笑顔で浮力がついているので、簡単に空に浮く。流氷の小島へアザラシと遊びに出発だ。

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