てるてるぼうず /野島せりか
と鏡の中の私を彼が見つめる
真剣な視線 愛していると言ったかどうか
はらはらと降り落ちる髪 まつげの先にそっと触れる
でも 本当は私の方がされるがままって事に気がついてはいるのよ
この布だってそでに手を通し下さいって言われて着たし
横髪を切る時も まっすぐ前を向いて下さいと両手を向けられたし
ブラシを入れる時もひっぱられる後ろ髪はそのままに 結局彼の言う事を素直に聞いてしまうから
最後までしゃんしゃんと仕事をする彼だけれど
ここだけの話
明日になって生活に戻れば このサラサラストレートだって 無造作に束ねられておしまい
次の風が吹いたら夏が始まる
そうすれば、明日の天気を気にしなくてもいい
窓辺にゆれるてるてるぼうずが もうすぐ外されるとも気付かずに
あてのない愛しい誰かの帰りを
首をつって待っている
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