帰省/落合朱美
 
降り立った駅のホームには
潮の匂いの風が吹いていた
タクシー乗り場では
タオルを首に巻いた運転手が
ワイシャツには不釣り合いなほど
日焼けした顔で機嫌よくドアを開けた

エアコンが苦手だと告げて
窓をめいっぱい下ろすと
乱暴に吹き込む風に
ほどけた髪がはためいて
それが心地よくて目を細めた

海沿いのゆるやかなカーブを走れば
防砂林の向こうに広がる海の
瑠璃色はどこか懐かしく
それは貴方の瞳の奥に見えた
あの深く沈んだ色なのだと気付いて
胸が苦しくなった

いつになっても変わらない町だと
貴方は苦笑まじりに言ったけど
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