*蒼夏*/かおる
 
カタカタと軋んだ音をたてて 五線譜の上に
吐き出されていくのは あの夏のことでした

紙杓子で掬ったあかい金魚を手放したのは僕

とっぷりと暮れた空にあめが降りつづいている
何処かに傘を忘れた僕は恨めしく外を見つめる

  母さん、覚えていますか
  僕がなくした麦藁帽子を

西日で焼けた畳の上には
ゆらゆらとみどり揺れる
空っぽの硝子鉢がひとつ

下駄箱には紅い鼻緒の突っかけ
積み上げていった想い出の欠片

渺々と吹き荒れる砂色の明日
という 嵐を従え 雨が降る

バシャバシャとすべてをみずに
流し 膿んだ日常を蹴散らして

そして 僕は ひっくり返った空に
ちっぽけな自尊心で漕ぎだしていく

緑濃くなっていくいま 
螺旋状に張られた弦を
つま弾くのは雨なのか

雲がちな空は拠り所を
なくしたボクを照らす
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