虫の夏/yo-yo
おとうさんは帽子と靴だけになって
夏はかなしいですね
おかあさん
虫は人になれないけれど
人は虫になれる
と母は言う
両手と両足を地べたにつける
そうやって虫の産声に耳をすますだけでいい
まだ透明な羽のままで虫は
すすきの葉のように体をまっすぐに伸ばした
夏はおもいっきり雌になって
わたしの体は緑色にふくらんでいる
雄になりたいきみ
足を折り曲げて後ずさりばかりしないで
枯れたハルジオンの上を跳んでおいでよ
羽が茶色くなるまで交尾して
きみの夏がすっからかんになったら
薄っぺらな羽だけ残して
あとは全部わたしが食べてあげる
胡瓜の蔓に嘔吐したり
ときには西瓜の夢にうなされても
雌たちは生きつづける
幾度かの夕立のあとに
虫は土に還ってしまうが
地べたを踏んばったままの母とわたし
ことしも夏にとり残される
これが虫の夏さ
帽子も靴もありゃしない
すっからかん
おかあさん
帽子がいま何かしゃべりましたよ
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