浄土ヶ浜/王
でも自分を不幸と思う心の不味さを知ってしまった(それは錆の味だ)
それと憐れみというのは安堵なのだと知ってしまった
僕はもう泣くのがいやだったので笑うことにしたのです
ああしかし笑うこともなんとつらいことか!
僕は一生懸命笑いました
失いたくないと縋り祈ったものを結局失った時も
涙はありませんでした
涙を忘れた
歌を忘れたように
もう僕は悲しみから開放されたのでしょうか
大切なものを失っても
もう平気なのでしょうか
僕は忘れていけるのでしょうか
もしかして僕は強くなったのでしょうか
涙と引き換えに
そう悲しくない
これから夜行バスに乗って浄土が浜へ行きます
昔、たしか僕が小学3年生のときに家族旅行で行ったのです
その時僕は海の美しさに泣いてしまったのです
もちろん悲しいのではなくなぜだかよくわかりません
涙をはらはらと流す僕を見て父と母はあわて
「具合が悪いのか?おなかが痛いのか?」と聞きました
ただただ首を振っていた僕はまたあの浜に立ち美しいと感じるのでしょうか
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