ヤコブの梯子/佐々宝砂
 

ようやく思い出した彼女の名を

すると
スナックも少年も歌声も
拭き消されたように消え
俺のかすんだ目にうつるのは
ぼんやりと白い天井

ゆっくりと首を動かすと
点滴の管があった
彼女の顔があった
やつれた顔には見覚えがあったが
その表情には見覚えがなかった

それから

不安げな・なつかしい・いとおしい声が
再び俺の名を呼んだ
俺ももういちど彼女の名を呼んだ
見開いた彼女の目に
たちまち涙があふれた



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