書評: 『世界で一番美しい病気』/中島らも/mana
いだけが募っていっても、やはり身動き出来なくなる。
僕らは何度も何度も転んで起きて、歩くことを身に付けた。傷つき、傷つけながらしか、僕たちは生きていくことが出来ないのである。そしてだからこそ、「出来ることならば傷つけ合わずに生きてゆきたい」というその思いは、安逸でありながら切実となる。その願いは祈りに似て、やはり美しいものだと僕は思う。
そんなバカはいないとは思うが「傷つけないで殺してくれ」なんて台詞はこの世で吐かれた日にはもう、しらけてしまうことこの上ない。簡単なことだ。この台詞をあなたがコトバとして発する時、あなたはすでに相手を傷つけているからである。 傷がつこうが傷つくまいが、癒えようが癒えまいが(※ちなみに僕はこの「癒える」はまだしも「癒し」なるコトバがあまり好きではない)、僕らは生きていくしかない。 互いに互いを傷つけて、時にはじぶんをも傷つけて、痛みを知りながら生きていく。
それはきっと、この『微笑みと唇のように結ばれて』よりも、ずっとずっと美しい。
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