ビオトープ/望月 ゆき
たところで
生きてるみたいね、って
だれかが言ったけど
みんな聞こえないふりをしていた
もう、夢の中でしか夢を見るのはやめよう
いろんなこと忘れてしまったけど
手をつなぐことだけ、忘れなかった
丸く、ガラス玉のように危ういその上で
きりがないほど笑って
何万回も見た夢のことや
ときどきふいにおそってくる思いを忘れた
忘れたふりをして今を笑った
手をつなぐことだけ、忘れなかった
夏の日
ぼくたちは生まれた
いつか見失ってしまった道の先にある
あの森で
光りかがやく未来とともに
なにひとつ手に入れてないけれど
なにひとつ失ったものはない
つないだままの手のひらの間に
入りこんだままの
あの日ふりそそいだ光のカケラ
ぼくたちはいつか
つないだ手をほどいて気づく
未来はずっと
この手の中で生きていた
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