桜・平城宮跡/たりぽん(大理 奔)
 
適当に掘られているようなトレンチ
きちんと測量されて
合理的な設定なのだと
発掘で変な日焼けあとのついた
汚いヘルメットの学芸員

掘り出された破片は
プラスティックのコンテナで研究所に運ばれ
薬品に浸され
つなぎ合わせて
複製までつくったり

歴史学や地学や物理学
そういったものの応用で
埋もれた生活を復元できるのだという。

それならば

皆既月食の夜に
この場所で君とはじめて交わしたキッスや
星を見ながらじっと肩抱き合ったこと
なんでもない話をしながら散歩したこと
渡り鳥が舞い立つ音に歓声を上げたこと
突然の雨に朱雀門の軒下に逃げ込んだこと
たくさんの、たくさんの想い出を
この桜たちの下に埋めておこう

百年が過ぎて
いや、千年が過ぎても
掘り出された想い出を
気難しい考古学者が
新しい詩学の応用で復元し
春の初めに散る花びらに忍ばせて

春風に舞い
新しい恋人達に
無邪気な笑顔をもたらしますように



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