走る羊/岡部淳太郎
 
夜の野を
羊たちは走る
帰るところなく
羊たちは大群となって
夜の腕の下を疾走する
月の微笑に照らされる夜
野の果ては地平線で切断されている

  人はひとり凍えて横たわる
  夜はつぎの朝のために存在するがゆえに

わけもなく
羊たちは走る
帰るところなく
ただひたすらに群れをなして
直線の夜を静かにひた走る
わけのない世界
わけを必要としない思い
ただひたすらにつき動かされて
足下の草のいのちの声を聞く

  人はひとり疲労の中に横たわる
  訪れるべきものをかすかな恐れとともに待つ

夜だからこそ
羊たちは走る
帰るところなく
羊たちは山
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