「マジシャン」/プテラノドン
 
 廃墟で美しい女が窓を拭いている。
手にしていたのはハンカチか、雑巾か、どちらにしろ
窓のガラスは全部割れていた。
柱の陰から鼠が、いつかいつかと
女を驚かす機会を伺っていた。が、それは無駄だった。
遅れてやって来た手品師の男が―、ヒョイッ!と
れいの黒い帽子を鼠にかぶせて終わり。
女は涙を流さず泣いていた。すると、手品師の男は
彼女の前で、帽子のなかから白馬の王子を出すという。
でもやっぱりあらわれたのは鼠で、
男は女を帽子のなかへ、うまく誘い入れるとその場を去った。
 そのあと、鼠はぐるぐると走りまわる―、そこは
男の腕時計のなかだった。秒針はほとんど反対に巡っている。
するともう、手品師は戻らなくちゃならない。
廃墟で女は、ハンカチを手にしていたし
鼠は柱の陰に隠れている。


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